情景BOOK【お店のものがたり】

雨の日のお客様

そのお客さんは片道3時間はかかるところから、電車とバスを乗り継いで、最寄りのバス停に着いてからは徒歩で30分かけてやってきました。その日はあいにくの天気でした。小さな雨がしとしとと降ってました。傘を置いて、お店の扉を開けてゆっくりと店内に入って、じっくりと店内を見回してました。目を閉じて、耳をすますように、しばらくじっとしてました。そして私に「こんにちは」と声をかけた後は、お店の中を一つ一つの物を眺めるようにして、まるで棚や商品と会話をしているように長いことそうしてました。

「私、とにかくこのお店に来たかったんです。何が買いたいとか、そういうんじゃなく、来たかったんです。私、ここから遠いところに住んでいて、車もないので電車とバスを乗り継いで。雨にも濡れたけど来てよかった。このすぷーん、ください」、そういって1本のすぷーんを買って帰りました。

それからしばらくして、その人から手紙が届きました。

店主様

あの日、雨に濡れた木々の緑が鮮やかで、木の扉がしっとりと佇んでいて、雫の音と揺れる木々の音が奏でる自然のBGMに優しくなでられて、扉を開けました。私は、その場所に包まれてました。あの日のその時の感覚を私は探していたように思います。また、雨の日に訪ねたいと思います。

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